保育士の残業・持ち帰り仕事の実態|"何時間"より構造で読む
「保育士は残業と持ち帰りが多い」——転職や復帰を考えるとき、ここが一番気になる人は多いはずです。ところが、その"月何時間"という数字を全国一律で示した公的統計を探すと、意外なほど見つかりません。この記事は、数字の代わりに公的調査が映している「何に困っているか」から、残業の正体を組み立て直します。数字がない部分は、正直に「ない」と書きます。
「残業時間」の公的な数字は、なぜ見つけにくいのか
まず前提の話から。介護や一般の労働時間統計と違い、保育士の残業時間だけを全国で継続的に測った公的データは整っていません。だから「保育士の平均残業は月◯時間」と言い切る記事があっても、その出どころは民間アンケートや園単位の調査であることが多い。数字が独り歩きしやすい領域だと、まず知っておくと読み方が変わります。
では公的な手がかりがないかというと、そうではありません。統計は「労働時間の長さ」を、働く人が何に不満を持ち、何を改善してほしいと答えたかという形で捉えています。ここを読むほうが、残業の実像に近づけます。
調査が映す「残業の正体」——量より中身
令和4年度の東京都保育士実態調査(現在就業中 n=11,277)を見ると、労働時間や仕事量にまつわる項目がはっきり浮かびます。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 退職を考える理由「仕事量が多い」 | 54.0% |
| 退職を考える理由「労働時間が長い」 | 35.4% |
| 職場に望む改善「事務・雑務の軽減」 | 40.1% |
| 職場に望む改善「職員数の増員」 | 48.6% |
| 職場に望む改善「勤務シフトの改善」 | 25.1% |
出典:東京都福祉局「令和4年度東京都保育士実態調査」(現在就業中 n=11,277・いずれも複数回答)。退職を考える理由の1位は「給料が安い」61.6%。
並べてみると、労働時間そのもの(35.4%)より「仕事量が多い」(54.0%)のほうが強く効いているのが分かります。そして望む改善の上位に「職員数の増員」と「事務・雑務の軽減」が来る。これは、残業の中身が保育そのものというより、書類・記録・行事準備といった周辺業務に偏っていることを示しています。人手が足りず、その周辺業務を勤務時間内に片づけきれない——そこで時間が押す、という構図です。
持ち帰り仕事の数字は「ない」——だから構造で読む
正直に書きます。持ち帰り仕事の量を数値化した公的統計を、私は見つけられませんでした。だからここは推測ではなく構造で説明します。保育の記録や連絡帳、指導計画、作品や行事の制作物は、子どもがいる時間には手をつけにくい。子どもと向き合う時間と、書類を作る時間が、同じ勤務時間の中で取り合いになる。この構造がある園では、終わらなかったぶんが残業や持ち帰りに回りやすくなります。
裏づけになるのが、業務支援システムの導入状況です。同じ調査で、システムが「導入されている」と答えた人は68.2%。そのうち「負担軽減につながっている」と感じる人は約7割(70.7%)にのぼります。事務作業の道具を入れると負担が減るという事実は、残業の主因が事務側にあることの裏返しとも読めます。
最後に
保育士の残業は「月何時間」という数字より、「人手と事務作業の量」という構造で見たほうが実態に近づけます。求人票の残業表記は、面接で体制を聞いて検算する。そのときに役立つ「1人が何人みるか」の基準は保育士の配置基準とは?年齢別の人数と令和6年度の改正を整理、面接での確かめ方は保育士の志望動機・面接——「辞めた理由」から逆算する園の見極め方で扱っています。辞めどきの整理は保育士を辞めたいと思ったら、離職の全体像は保育士の離職率は9.3%で続けて読めます。
・東京都福祉局「令和4年度東京都保育士実態調査」(退職を考える理由/現在の職場で改善を希望する項目/業務支援システムの導入と負担軽減・いずれも複数回答、現在就業中 n=11,277)
※保育士の残業・持ち帰り時間を全国一律で継続的に示した公的統計は本記事時点で確認できず、本文は上記調査の「改善希望・退職理由」から構造を読み解いたものです。残業・持ち帰りの量は園により大きく異なります。実際の体制は各園にご確認ください。
残業時間の平均値を探して見つからなかったとき、逆に確かめ方が見えた気がしました。
全国平均の残業時間が分からないなら、園ごとに確かめるしかありません。私が資料から逆算して思うのは、残業を左右するのは「職員数に余裕があるか」と「事務作業がどれだけ効率化されているか」の2点だということ。調査で改善希望の上位に来たのが、まさにこの2つでした。だから求人票に「残業ほぼなし」とあったら、額面で信じる前に、面接で「クラスは何人を何人でみていますか」「記録や指導計画は勤務時間内に書ける体制ですか」「業務支援のシステムは入っていますか」と聞いてみる。答えが具体的に返ってくる園ほど、残業が構造的に少ない可能性が高い。数字がない領域だからこそ、平均を探すより、目の前の園の仕組みを一つずつ確かめるほうが確実だと思います。